15分かかるポテトサラダ

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土曜21時。目黒川沿いのバーで、僕はわりと打ちひしがれていた。

出会って間もない女の子との初デート。しゃれたビストロを予約し、似合っていなくもなくなくないチェスターコートに身を包んでの参戦だった。

ところが、メニュー選びの時から、事態は芳しくない。

「冷菜と温菜から1種類ずつ頼もうか。気になるものある?」
「べつに……」
大辞林に載せてもいいくらいの定番のお言葉をいただく。え、もうすでにあきませんのん? あまりにも盛り上がらないテーブル席に焦りは募る。だが、まだ甘いとばかりにさらなる悲劇が襲ってきた。

 

「おまたせ~」

隣のテーブル席から聞き覚えのある声がした。
待ち合わせに遅れて到着したらしい男の顔を、ちらりと見る。

 

「!?」

なんと、部の後輩ではないか。会社から縁もゆかりもない立地を選んだのに、この有様かよ。後輩のほうも僕に気づいたらしく、顔が固まっている。よく見ると、待ち合わせのご婦人とこの後輩、瓜二つであることに気が付く。

 

(こいつ、お母さんとビストロに来ている……?)

親孝行は最高だし、お母さんとビストロに来るのも超楽しい。しかし、その場に同僚がいるなら話は別だ。同時刻、クレバーな後輩も、こちらの盛り下がりに下がったデート事情を瞬時に把握したらしい。

「……」
「……」

 

互いに今日のことはナカッタコトニスル、と目で合図する。

 

だが僕はコンソメチキンを100倍薄めたくらいのチキン野郎である。もうだめ、もう口説けない。月曜日に顔を合わせるのがいたたまれない。隣のやり取りも全力でシャットダウンするよう努めたが、
「正月、食いたいもんあるんか」
みたいな会話が繰り広げられていると思うと、ますますいたたまれない。

 

結論からいうと、デートは惨敗に終わった。聞いてもいないのに「私、東横線だから」とマイ路線まで申告されてしまった。駅まで送りとどけて、ふたたび川べりまで戻る。飲まずにいらRenta。ふらふらと目についたバーに入った。

 

「いらっしゃいませ」

スーツのこなれたバーテンダーが出迎えてくれる。

「おすすめのスコッチを水割りで。あと、何か食べ物はありますか?」
「お時間いただけるようなら、熱々のポテトサラダをお作りしますよ」
「いいですね、ぜひ」

二つ返事で答える。バーのポテサラ、いいじゃないか。いま、お袋の味系ポテサラが出たらきっと泣いてしまうだろう。
大丈夫。夜が明けるまで、あと何時間もあるんだ。

 

 

 

 

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