ズービン・メータと夜の歌

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(C)HELICON RECORDS

 

バイエルン放送交響楽団の公演チケットを持て余している。

 

首席指揮者マリス・ヤンソンスを擁する世界最高峰オケの2年振りの来日。しかも曲目がグスタフ・マーラー交響曲のなかでもカルト的人気を誇る第7番「夜の歌」とあれば、チケットを買わざるを得なかった。

 

ところが、10月末に驚きの一報が届いた。健康上の理由に伴うヤンソンスの降板。彼も今年で75歳、体調の一刻も早い回復を祈るばかりだ。

代わりにタクトを振るのは、巨匠ズービン・メータ。当初は、メータの「夜の歌」を聞けるのかと思ったが、曲目もマーラー交響曲第1番「巨人」に変更されるという。正直に言うと、余りに惜しい・・・・・・。この組み合わせを誰よりも熱望していたのが自分ではないかと、僕はうぬぼれている。

 

――中学3年時のクラス替えで、ある女の子に出会った。ピアノが上手なことで有名な子で、毎年、合唱コンクールの伴奏を務めていた。クラオタが他にいなかったこともあり、僕らは気が合った。休み時間には教室の隅で、吉田秀和氏のラジオ番組「名曲の楽しみ」を録音したMDを聞いて過ごした。

 

秋。○○校の音楽科を受験するんだと彼女が教えてくれた。ひっそりと、同じ高校の普通科を目指すことに決めた。僕はその子が好きだった。

彼女は先生に頼み込んで音楽室の鍵を借り受け、昼休みにピアノの練習を始めた。ベートーヴェンソナタを繰り返し弾く彼女。僕はその傍らで、もさもさした絨毯に座り込み単語帳をめくって過ごした。するとピアノの音が少しくぐもって聞こえるのが好きだった。

 

冬になると、とんでもないニュースが舞い込んできた。このマイナーな田舎県に、一流オーケストラがやって来る。翌3月のズービン・メータ×イスラエルフィルハーモニー管弦楽団である。曲目はマーラー交響曲第7番「夜の歌」。演奏機会の少ないこの曲を、僕らはもちろん聞いたことがなかった。

なけなしの小遣いで学生席のチケットを入手し、小さなレコード屋の一角にあるクラシックコーナーに駆け込む。選ぶまでもなく、マラ7はたった一枚しかない(クラウディオ・アバドベルリンフィルとの録音だった)。

 

「メータのコンサートに行くの?」

CDをレジに持っていくと、店長が声を掛けてくれた。それくらい、この100年、この地で「夜の歌」が演奏されたこともなければ、今後100年は演奏されることもないように思えた。

彼女と僕はこの曲にのめり込み、暗記するまで繰り返し聞き続けた。

 

(続きます)

 

 

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