二杯目のクラフトビール

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「長年の夢を叶えましたよ」

 

ハロウィンの喧騒とはほど遠い地下のクラフトビアバーで、バーテンの田原さんは、そう笑った。月曜日の19時。こんな時間から飲んでいるのは、不良教授の紺野さんと、私くらいだ。カウンターで苦めのスタウトを舐めながら、「夢ですか」と返す。

 

「来月いっぱいで、店を辞めさせてもらうことにしましてね。神保町で小さな日本酒バーを開くつもりなんです」

 

飲食業界に入るきっかけが、日本酒との出会いだったんです、と田原さんは続ける。紺野教授が「自分の城ですか。いいですな」と讃えた。私も「ほんと、ほんと」とうなずく。

 

ちょうど一年前の10月、初めてこの店を訪れた。友人の紹介で初めて会った男性に、映画を観た後、「じゃ、これで」と帰られた日のことだ。まさかの「デート途中で帰られる」事態。平均くらいの容姿、とうぬぼれていた私は、ただただぽかーんとした。

 

今思い返せば、買ってもらった二人用のWポップコーン(塩とキャラメル)に1粒も手を付けなかったことが原因の気がする。・・・・・・むしろ、そう思うよう努めている。

 

とにかく日曜の午後から絶望した私は、最寄り駅まで戻り、17時から空いていたビアバーで飲んだくれていたわけだ。後日、田原さんから「目の据わった女性が初見で入ってきて、メニューの片っ端から飲んでいた」と聞かされた。

 

その後、究極に酔っぱらってマンションに辿り着くも、玄関前で力尽きる。隣人カップルに「死体かと思った」と揺り動かされ、「同居人に閉め出されたのかと思った」と自宅チャイムを数回鳴らされて、ようやく目を醒ました。人生最大級にやらかした。社会人失格である。

 

あれから一年。田原さんは自分の城で日本酒を供し、私は1DKの城(賃貸)でLEGOスター・ウォーズ)を組み立てている。片や未来へ突き進み、片や5歳へ原点回帰。あれ以来、酔っぱらっていないことだけが救いだ。

 

インターホンの録画記録にはその時の痴態が残っている。チャイムを鳴らす困惑気味のカップル。その足元で、こんこんと眠る私。ただ、顔が見えない。私はどんな顔をして眠り、どんな夢を見ているのだろう。

 

 

秋惜しみ鉢に溢るる人魚かな

 

 

  

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